韓国の金融当局「保険金詐欺TF」を始動…渓谷殺人事件が余波
韓国では今、2019年6月に発生した、ある保険金目当ての殺人事件が世間の注目を集めている。妻とその愛人らが、泳げない夫を渓谷の岩の上からダイビングさせて溺死させたとされる事件で、今月4日、容疑者2人が殺人罪で起訴された。
妻と愛人の行状に世間が怒り
発生当初、事件性なしと判断されていたこの事件だが、2020年10月に民放のドキュメンタリー番組が疑惑を詳細に報道。それをきっかけに、夫から計画的に財産を搾取した上、死に追いやった妻と愛人の悪行に世人の怒りが爆発し、センセーションとなった。
そして、その余波は保険業界にも及んだ。保険金詐欺の深刻性を問題視した金融当局が、対策を練るタスクフォース(TF)を立ち上げたのだ。
政府の金融委員会と金融監督院、生命・損害保険協会、信用情報機関などで構成されたTFは先月末、初会合を開いた。
会合では、「渓谷殺人事件」をきっかけに浮き彫りになった問題点を根本的に防止するための方案が話し合われた。金融当局は、その内容を元に内部検討を行い、TFの方向性を具体化させる計画だ。
TFが実質的な結果を出すまでには、時間がかかる見込みだ。「渓谷殺人事件」と関連するケースを中心に討論が行われたが、詐欺防止の盲点をなくすため制度的な改善を図るべきだとする案と、疑わしいケースに対する調査力を強化すべきとする意見が衝突。合意点を探るのは容易でないと見られている。
会議では△死亡保険金の加入限度管理方案を設ける△ 実損填補の重複加入制限△旅行者保険信用情報の集中――などに関する事案が言及された。
死亡時、失効直前
起訴された妻、イ・ウネ被告には、殺人罪のほか殺人未遂と保険金詐欺未遂の疑いもかけられている。夫のユン氏はイ被告との婚姻届を提出してから5カ月後、4件の生命保険に加入。イ被告が受取人となっていた死亡保険金は、計8億ウォンに達していた。
その一方、大企業に勤務しながら、イ被告や愛人のチョ・ヒョンス被告らにより継続的に金銭を搾取されていたユン氏は、多額の保険料をたびたび滞納し、死亡時にも保険契約は失効直前だった。逆に言うと、イ被告らは失効ギリギリのタイミングで犯行に及んだわけだ。
現状では、ユン氏のように保険料の滞納を繰り返すような経済状態に置かれた人であっても、多額の保険金を掛けた生命保険契約を維持することが可能だということだ。
現在、韓国の生保各社は死亡保険金の上限を10億ウォン、他社との合算で30億ウォンに定めている。これを、法規制ではなく業界のガイドラインでコントロールするとなると、公正取引委員会から談合の指摘を受けかねない。
そのため、高額の生命保険加入を制限するため、金融機関から融資を受けるのと同様に、所得証明書の提出を要件とするなどの代案が議論された。
一方、イ容疑者は海外旅行中に所持品が紛失や盗難に遭ったように装い、約800万ウォンの保険金を詐取した疑いが持たれている。
旅行者保険の場合、法的には重複加入の確認対象となっておらず、信用情報機関の保険信用情報にも網羅されていない問題がある。多数の保険に加入すれば、ひとつの案件で重複補償を受けられるということだ。
TFは今後、旅行者保険の重複確認システムの構築や、加入限度の管理方策を探っていくものと見られる。
パク・ヨンジュン記者