2021年、韓国の銀行業界を彩った5つの話題
韓国の銀行圏にとって2021年は、どのような1年だったか。
金融消費者保護法や家計債務総量制の実施を受けての当局との対立や、トスバンクの登場やシティ銀行の撤退によって、金融市場の版図にも変化が起きた。
各銀行は急変するデジタルトレンドに遅れないために、メタバース事業に取り組んだり、「ビックブラー」現象に合わせてプラットフォームの無限競争に突入したりした。
多事多難だった韓国の銀行圏の2021年を5つの主題に整理してみた。
1.金融消費者保護法で右往左往
昨年3月25日に施行された金融消費者保護法は、一部の金融商品に限って適用していた「6大販売規制」――◇適合性◇適正性原則◇説明義務◇不公正営業行為◇不当勧誘行為◇虚偽・虚偽誇張広告禁止――を、すべての金融商品に拡大して適用することを規定した。
これに違反した金融会社には、関連商品収入の最大50%に至る懲罰的課徴金を科し、販売社員にも最大1億ウォンの過料を科すこととなる。
金融消費者保護法が施行された当初、営業現場は大きな混乱に見舞われた。商品説明の義務が強化されたことで、窓口では金融商品に加入するための時間が従来と比べ2~3倍以上も延び、顧客の不満が噴出した。一部の銀行では、金融消費者保護法の実施で、非対面サービスを一時中止したりもした。
金融消費者保護法をめぐっては「消費者なき消費者保護法」という批判も出ている。8年前に発議された法案は、新型コロナウイルス以後、非対面転換に拍車がかかった現在の金融商品市場の環境とは合わないという指摘だ。
このような指摘に関して、金融当局は「金融会社の苦情迅速処理システム」という金融業界との専門窓口を開設した。金融消費者保護法の制定により、新設・強化された規制違反に対し、施行から6カ月後の昨年9月までは非処理とするなど、指導中心の監督に取り組んだ。
指導期間が終わった今、金融業界の全般的な苦情は減少し、法規制に実効性があるという肯定的な評価が出ている。
金融監督院によると、昨年上半期、金融苦情の受付件数は計4万2725件で、前年同期(4万5922件)比3197件(7.0%)減少した。銀行圏や生保、損保業界などの苦情が同期間と比べそれぞれ3.8%と13.1%、2.9%ずつ減少した。
2.総量制が招いた「融資大乱」
銀行圏で、家計債務の増加は2021年にも大きな問題だった。
新型コロナウイルス事態の長期化による経済不況を乗り切るため、生活目的の緊急融資が急激に増えた。また、低金利など緩和的金融環境に不動産、仮想通貨、株式投資ブームがもたらした「ヨンクル(※1)」と「ピットゥ(※2)」ブームまで重なり、家計債務は急速に膨らんだ。
【注※1】「ヨンホン(魂)」と「クロモウダ(かき集める)」を合わせた造語で、あらゆる資金を動員して住宅を購入することを言う。
【注※2】「ピッ(借金)」と「トゥジャ(投資)」を合わせた造語で、借金して株式などへの投資を行うことを言う。
その結果、政府は昨年4月、年間家計債務の増加率を5~6%に抑える「家計向け融資総量制」を導入した。
特に、高承範(コ・スンボム)金融委員長が就任が内定した昨年8月以降、当局は銀行圏に強力な融資の締め付けを行い、融資総量の調整に突入した。
当局の圧迫を受けた銀行圏は融資の敷居をさらに高くした。昨年6月、高信用者への信用融資を皮切りに、マイナス通帳と集団融資の金利が引き上げられ、限度が大幅に縮小された。そして、一部の銀行は住宅担保ローンとチョンセ(伝貰)融資の新規販売を昨年末まで全面中断するなど、強硬手段に出た。
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昨年11月末基準、各銀行別の家計向け融資増加率は、△国民銀行5.43%△新韓銀行6.30%△ハナ銀行4.70%△ウリィ銀行5.40%△農協銀行7.10%となっている。
昨年に続き今年も、「融資大乱」が起きると予想される。不況の上、金融の不均衡まで深刻化している現状では、より厳しい規制は避けられないというのが、金融当局の判断だ。
金融当局は、今年の家計向け融資増加率の目標値を、昨年よりさらに低く設定する可能性を明らかにした。韓国の銀行圏は、恐らく4.5%前後に下がると予測している。
3.韓国シティ銀行撤退とトスバンク誕生
韓国シティ銀行は昨年10月25日、消費者金融事業部門を段階的に廃止することを明らかにした。2004年のシティグループによる韓美銀行の買収後、シティ銀行が発足してから17年目のことだ。
その後、シティ銀行は雇用承継を前提に消費者金融事業部門の全体売却を進めてきたが、適切な売却先を見つけることはできなかった。
シティ銀行の関係者は当時、「売却を最優先順位に置き、さまざまな案とすべての提案を十分に検討したが、いろいろな現実的制約を考慮し、消費者金融事業部門について段階的廃止の手続きを踏むことにした」と説明した。
一方、韓国で3番目のネット銀行であるトスバンクが、シティ銀行の撤退でできた空白を埋めている。
トスバンクは昨年10月5日、破格の金利条件を掲げて正式に発足した。
トスバンクが発表した信用融資の最低金利は年2.76%で、すでに3~4%台に引き上げられている5大銀行の金利はもちろん、カカオバンク(2.86%)、ケイバンク(2.87%)よりも低い。融資限度額は最大2億7000万ウォンと、銀行圏でも最高のレベルだ。
トスバンクは、高信用者はもちろん、中・低信用者と1300万の『シンファイラー(※3)(Thin-Filer)』にも公正な信用評価を行い、合理的な金利と融資限度を提示する計画だ。
【注※3】「シンファイラー」とは金融取引がなく、関連する資料が少ない顧客を意味する。つまり、クレジットカードの利用内訳や融資実績などが極めて少ないか、存在しない人を指す。
ただ、トスバンクは発足のタイミングと当局の家計向け融資規制強化が重なり、融資営業を開始から10日後に中止した。開業効果で序盤から融資需要が集中し、9日間だけで金融当局が与えた融資上限の5000億ウォンを使い果たした。
トスバンクは融資限度が復旧する今年1月1日から営業を再開する方針だ。
トスバンクの関係者は「顧客を信用点数によって分けず、公平な融資を受ける機会を提供する計画だ」としながら「新型コロナウイルスで困難を経験した自営業者など、中・低信用者の信用度改善効果が現れるものと期待している」と述べた。
4.「メタバース」で描く未来店舗
デジタル時代への転換と新型コロナウイルスの長期化により、日常生活に多くの制約が生じ、精巧な技術でさまざまな体験を提供する「メタバース」への関心が高まっている。
メタバースとは、仮想、超越を意味するメタ(Meta)と、現実世界を意味するユニバース(Universe)の合成語で、現実を超越した仮想世界の概念を意味する。
関連記事:韓国の銀行、メタバース導入に拍車…不完全販売の懸念も
非対面チャンネルの強化に力を入れている各銀行も同様に、デジタルトレンドの変化に合わせ、昨年、メタバース事業に先を争って参入した。
内部会議、新入行員研修、社内行事など基礎的な業務活動でメタバースの活用を始めたのに続き、長期的には「メタバース店舗」もオープンする方針だ。これはメタバースに慣れている未来顧客であるMZ世代を狙った未来型店舗だ。
新韓銀行は最近、メタバースのサービスを具現化する情報技術開発会社の選定を終えた。仮想空間で融資を受けたり、金融商品に加入したりできるようにするという構想だ。
IBK企業銀行はサイワールド(日本のMIXI)のメタバースプラットフォームに「IBKドトリ(サイワールドだけで使われるネット上のお金の概念)銀行」を出店する計画を立てた。利用客は時間と場所に束縛されず、サイワールドの中のIBKドトリ銀行を訪問してサービスを体験できる。
ある都市銀行の関係者は「メタバース環境の中で金融機能を提供する役割が銀行になるのか、それとも別のデファイ(DeFi、脱中央金融)生態系が構築され、銀行の役割を担うのか分からないが、今後、仮想環境で物理的銀行の営業店に代わる機能が出るのは確実だ」と説明した。
5.産業境界を崩すビッグブラー
プラットフォーム中心の非対面取引が活発化し、産業間の「ビッグブラー(BigBlur)」が新たなトレンドを形成している。
ビックブラーとは、変化のスピードが速まり、今まで存在していたものの境界が入り混じる「境界融和」現象のことを言う。
特に、昨年は既存の銀行圏に向けた挑戦があちこちで殺到した。ビックテックのネイバー、カカオが金融商品とペイ市場に進出したことで、都市銀行に積極的な変化が求められている。
これに対し、銀行圏は生活金融プラットフォームの構築で向かい合っている。総合プラットフォームへと変化しない場合、将来的に金融商品メーカーに止まるだろうとの危機感が働いた。また、金融以外の非金融データの蓄積を通じて消費者に合わせた金融サービスを提供するという意図も込められている。
新韓銀行は最近、配達アプリ「テンギョヨ」のモデルサービスに入った。今年末までに、ソウル全域と首都圏に8万個の加盟店を確保する計画だ。KB国民銀行の場合、KBスターバンキングアプリに配達アプリ「ヨギヨ」を入れた。
ウリィ銀行はコンビニエンスストアのセブンイレブンと提携し、「マイコンビニ」サービスを開始した。午前11時から午後11時まで、セブンイレブンの商品を1万5000ウォン以上を注文すれば、顧客が望む場所に配達してくれる。
これに先立ちウリィ銀行は、宅配プラットフォームサービス専門業者のパッスルメディアと手を組んで「My宅配」サービスを展開した。My宅配は、配達員の訪問宅配、コンビニ宅配の予約・決済、個人別の携帯番号に基づいた宅配運送状況の照会などを提供する。
NH農協も昨年8月、モバイルバンキングアプリ「オールワンバンク」で花の配達決済サービスを開始した。利用者はオールワンバンクで韓国花卉農協の花束と和漢、蘭などの商品を注文すると、登録されたNH農協口座とカードで決済できるようにした。またNH農協経済持株と提携を結び、韓国産の畜産物を購買できる「農協LYVL(ライブリー)」も開催した。
ハナ金融経営研究所のリュ・チャンウォン研究員は「プラットフォーム事業ではネットワーク効果のために顧客を早く確保するのがカギで、初期に大規模な投資など銀行の伝統的な投資方式と違う接近が必要だ」としながら「発売後も、持続低価格顧客フィードバックと利害関係者の管理を通じてプラットフォームを改善させなければならないため、銀行はプラットフォームを専担するアジャイル(Agile)組織を通じて密着管理する必要がある」と話した。
アン・ソユン記者